「何者」小説を読んだ感想。ネタバレあり。

図書館にふらっとよったら、たまたま目に入ったので借りて読んでみた感想です。映画は見てませんし、見る予定もありません。


正直、これまで読んできた小説の中でもトップレベルで共感でき、おもしろい一冊でした。「桐島、部活やめるってよ」を読んでから約四年。朝井リョウの作品を読むのは今作で二冊目。桐島、部活やめるってよ。は個人的にはあまりはまらなかったので朝井さんの作品はそれ以降読んでいませんでしたが、「何者」これは超ドはまり。就活をテーマに人間味あふれる話が展開されていくわけですが、最後までドキドキの一冊でした。

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出てくる登場人物は5+1といった感じで、その固定されたグループの中で就活という、一度は自身を見つめ直す機会に立って誰がどう動いていくのかがポイント。クズだな~と思う右あれば、ええ子ちゃんやな~と思う左ありのリアリティあふれる作品でした。諸藩が2012年ということで、作者さんが就活していた時期とそう変わらないんじゃないかと思います。ヨブンのこと、というラジオで普通に働いていたと言っていたのプラス年齢的に考えるとほぼ間違いないはずです。


———ここからネタバレ入ります———

感想

一人ずつ書いていきます。

まずは、
「にのみやたくと」
最後は観察者なんて言われてましたが、まさにって感じですね。自分はあくまで普通の人間で、でも隆良やギンジみたいな痛い奴とは違う。そうやって普通の人間を装って結果人には依存していないと保っていられない。俯瞰したような口ぶりでクールっぽく振る舞ってる。初めこそいいやつなんだろうな~と思っていましたが、サワ先輩の言葉や、最後の最後に出てくる裏垢(何者)のおかげで、普通に性格悪いだけなんやな~って思いました。就活、とくに新卒の面接はポテンシャル重視だからタクトのような愛嬌のない、中身のない人間はアウトなんですよね。比べて光太郎は、まさに光のように明るくそれでいて自頭もいいときた。タクトとはある意味正反対ですね。序盤はタクトも就活うまくいんだろうな~って漠然と見ていたので、いい意味で期待が裏切られてうれしかった。逆に初めの4.50ページは光太郎は就活大丈夫か~と思ってました笑。
タクトは終始、人の悪い面を洗い出していましたね。良い面ではなく悪い面ばかり、これまでの経験から少し性格が歪んでいるなと感じました。
タクトを反面教師に、もう少し人の愚痴なんかは減らして生きたいと思いました。性格って端々に出るので。


「光太郎」
明るくて自頭よくて、人間できてんな~な存在。初めの方は微妙なキャラかな、就活も勢いで物事浅く考えて失敗するタイプかなと思っていたらまさかの真逆、おちゃらけているようで誰よりも空気が読めて、場を明るくできる人気者。中小でも出版社に入れる人間は一握りだと思うので、中小出版と専門商社から内定をもらって謙遜してる姿は素直に素晴らしいですね。ある意味では学生の鑑、1~3年まではいっぱい遊んで、就活も成功するようなコミュ力人間力を付ける。なんだか普通にいい子すぎて感想もあまりありません。無邪気に見えて冷静に場が見えるのも素晴らしい。


「瑞月」
母親の話が出たときはマジか~そんなことあってたまるか!!って感じでした。理不尽ってやつです。そして光太郎に対して、振られた言い訳のようにも聞こえましたが光太郎のドラマを邪魔しちゃいけないってのは辛いなと、もっとワガママにいこーぜと考えものです。
隆良に言葉の波状攻撃を食らわした時は、家で一人よく言った!と気持ちよくなってました。痛い奴に痛いというのは予想以上に難しいもので、本の中でもそう言ってくれると気持ちいいですね。その後のタクトの一手も「頭の中にあるうちは、いつだって、何だって、傑作なんだよな」これも爽快です。以前作者の朝井リョウさんが、本を書きたいとか書くとか言って、結局一本書き上げるやつなんてそんなにいない。そう言っていたのを思い出しました。頭の中では傑作、書きだすとボロボロ、小説なんて大概そんなものなので、途中でつまんなくなって辞めちゃうんだろうな~~~。

って感じで、瑞月さんは終始ええ子ちゃんでした。


「小早川りか」
いや~クズってましたね~。最後のタクトに対するまくし立て、ここにすべてが集約しているような気がします。自分を棚に上げて言っちゃう感じもキツイ。肩書きがバーってあって中身がない系は、個人的に嫌いというか近づきたくない人種なのもあってりかさんは早々にワーストキャラになってしまいました。しっかし、海外留学に海外ボランティアに海外インターンバックパッカーはもうキツキツなのなんの。
「夢は見るものではなく、叶えるもの」で「世界を舞台に働きたい」の具体性のなさはもう、朝井リョウ恐るべし。書く前からりかさんを地獄に突き落とす気満々だったでしょ笑。


「隆良」
痛い、ただそれだけ。バイトを仕事と言うのも、コラム執筆というのも、もう怖い。現実にいたら絶対に近寄らないタイプ。自論を振りかざしてやまないのもまあすごい。それを受け流す光太郎の人間出来てる感もすごい満点。
個人的には、これもこうはなりたくないな~っていう反面教師ですね。周りを見下したように否定しないと存在意義を見出せないのはね。何かを本気でやってみないと変わらないだろうな~~~。りかさんとお似合い。


「烏丸ギンジ」
苗字カッコええ。
最初は鳥丸だと思ってた。

全体通して

就活を通して、一つ人間試される場を通して、剥がれる化けの皮を俯瞰する小説。
自分は「何者」かになんてならなくてもよいと思う一方で、何者かになりたがる友人を否定することで「何者」かになりたがったタクト。
結局は、他人の悪口や嫌な部分しか見えない人に明るい未来はないということで、今一度自分の性格や考え方を見つめ直そうと思いました。

この小説で出てくるような内面的な「何者」にはなれても、ミュージシャンとか世界を駆け巡るキャリアウーマンとか表現者とか、そういう「何者」には普通じゃなれないしそれでいいんですよね。ようよう感じます。


図書館で借りて読んでいて、「何様」も隣にあったのでこれから読んでみます。映画は見なくても小説でお腹いっぱいなので、「何様」で最後にするつもりです。